稲田姫物語 オロチ退治前日の話 その3。

本日も稲田姫物語の続きです。




スサノオはまるで脳天を雷で打たれたかのような衝撃を受けていた。

身体は金縛りにでもあっているかの様に硬直し、更には思考は停止し、頭の中は真っ白だった。

スサノオはただただ、クシナダの白いうなじだけを凝視していた。

そして何よりその様な己の態度に驚愕するばかりだった。

クシナダが髪を片側に束ね後ろを向いた。

ただそれだけだ。

たったそれだけの事で己は今までに経験をした事の無い程の衝撃を受けている。

(これは一体何なのだ?私は一体どうしたというのだ・・・?)



スサノオは女の肌を知らないという訳ではない。

いや、むしろ知り過ぎていると言っても過言ではない。

高天原にいた頃は、天下のアマテラスの弟という肩書きの下に媚を売ってくる女はごまんといた。

鼻につく匂いを辺りに漂わせ、肌を露わにし、そしてその肉体をスサノオの身体に擦り寄せてきた。

その様な女をスサノオは冷めた目で見下ろし、時に己の欲望のまま乱暴に扱った。

女の欲に対し男の欲で返す。

それに何の問題があろうか?

スサノオは下心をその肉体の下に隠し色を振り撒く女など飽きる程見、そして飽きる程まぐわってきたのだ。



だが、今の自分はどうだ?

童と言っても過言ではないこのおなごのちょっとした仕草で、かつて味わった事の無い程の衝撃を受けた。

白いうなじを見た、ただそれだけの事で。

そう言えば、クシナダ姫にはあの女共の様な欲は見受けられなかった。

ただただ純粋な色香だった。

それ故に衝撃を受けたのだろうか・・・?



スサノオよ、卑劣極まる乱暴者として高天原を追い出されたお主は、一体どうしたというのだ?

女を己の欲望のままに扱ってきた男はどこへ行ってしまったのだ?

今のお主はまるで初めて女の秘部を垣間見た少年の様ではないか・・・。

「まいったな、これは・・・」

スサノオは顔が紅潮するのを感じながら何故か緩む口元を手で隠し、クシナダのうなじから無理矢理視線を逸らせた。



クシナダはスサノオの様子を見ようとこっそりと振り返った。

するとスサノオは顔を耳まで紅潮させ、口元を手で押さえているではないか。

(どこか具合でも悪いのかしら・・・。あの手はもしかして吐き気?)

クシナダは心配そうな面持ちを浮かべながら腰をひねり、足を横座りの形にしながら両手を前に突き、それからスサノオの顔を下から覗き込んだ。

(やはり顔が赤い。川へ潜られたから風邪でもひかれたのかもしれない。熱は?)

クシナダは片手を上げ指の甲側でそっとスサノオの額に触れた。

スサノオは突然額に当てられた冷たい手の感触に心の臓が飛び出るかという程驚き、身体を硬直させてクシナダを見た。

「何を・・・」

「動かないでくださいませ」

クシナダはスサノオの目を素早く見、早口で伝えると、小首をかしげながらもう片方の手を自分の額に当て、神妙な面持ちでスサノオの体温を計り始めた。

(やはり少々高い気がする・・・)



一方のスサノオは、下から覗き込むクシナダの襟元から覗く白い胸元に、ハッと気がついてしまった。

そして最大限の自制を以て慌てて目線を逸らすと、大きな溜息をついた。

(どうしてこのおなごはここまで己の色香に無頓着なのだ・・・。この調子では出逢う男を次から次へと落としてしまうぞ。私はこれからどうすれば良いのだ?指摘をするか?いや、それでは私が純粋なクシナダ姫を邪な目で見ている変態の様に思われるではないか。しかしクシナダ姫の色香を他の男に見せる訳にもいかぬ。どうしたものか・・・。このままではクシナダ姫の背後にぴったりと片時も離れずに寄り添い、逢う男逢う男に睨みを利かせていかなければならぬではないか。・・・それも良いか?いや、それでは男の威厳というものが・・・以下略)

などと愚かな事を考えているスサノオに全く気がつかないクシナダは、スサノオの額から手を離すとその目をキッと見つめ、

「寝床の準備をします!」

と、告げた。

そして素早く立ち上がるとスサノオにくるりと背を向けた。

だが次の瞬間クシナダはピタリと動きを止め、今度は小首をかしげたかと思うとまたくるりとスサノオの方へと向きなおした。

それからスサノオの傍らに置いてあった上着を素早く手に取るとパンッとひと払いし、上着を広げながらスサノオに向かって勢い良く突き出した。

そしてキリッと引きしまった表情を浮かべ、

「まずは上着を着てくださいませ!」

と言い放った。



スサノオは口を開けっぱなしにしたまま、しばらくあっけにとられた様子でクシナダの一連の動きを見ていたが、ふと我に返ると思わず吹き出してしまった。

(このおなごは本当に・・・)

己の想像の範疇を軽く超えたクシナダの行動に、スサノオは声を上げて笑った。

生まれて初めて、心の底から笑った。



・・・どのくらい時が過ぎただろうか。

クシナダはスサノオの上着を抱きかかえたまま、いつまでも腹を抱えて笑うスサノオを困惑した様子でただただ見つめていた。

そしてまた小首をかしげると、思い切ってスサノオに話しかけた。

「スサノオノミコト・・・。よく分かりませぬが、とりあえず上着を・・・」

「ワハハ!風邪などひいておらぬ、大丈夫だ、フフフ・・・」

スサノオは笑い過ぎて涙の浮かんだ目を向けると、クシナダの頭の上に手をポンと置いた。

それから優しく頭を撫でた。

(愛おしい・・・。なんと愛らしく、なんと愛おしいおなごだろうか)

そう思った後、はたと気がついた。

(・・・愛おしい?)

スサノオは今までの人生の中で決して感じた事の無かった感情に気づくと、己の行動になるほどと合点がいった。

(クシナダ姫へ抱くこの少年の様な感情は、『愛おしい』という想いの成せる技か・・・)

スサノオは自分の中に新たに生まれた感情を味わいながら、クシナダに声を掛けた。

「ほら、首飾りを着けてあげるから後ろを向いて」

「でも・・・」

「いいから」

スサノオは両手をクシナダの両肩に軽く添えると、くるりと後ろを向かせた。

そして両肩に体重を掛けて床に座らせると、少々ぶっきらぼうにクシナダの髪を払う様にして片側に寄せた。

それからクシナダに髪を持ち上げさせ麻紐を首筋に這わすと、ちょうど良い紐の長さを確認させた後、左右の紐を結びつける作業に入った。


明日も続きます。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..


musica 「は〜、長いですねぇ・・・」

スーさん 「我々の愛情の疎通の場面であるから、大切に書いていかねば」

m 「はいはい、ラブラブラブラブ。それにしてもアレですね。スーさんが稲ちゃんのうなじに惹かれたのは、稲ちゃんの二面性故かと思ってたのですが、ちょっと違うみたい」

ス 「もちろんそれもあるだろう。まだまだ内面の幼い女の子だと思っていたのに、ふとした瞬間に妖艶な女の顔を見せたのだ。男はこの様なギャップに弱い」

m 「・・・へぇ」

ス 「しかしこの場面では、スサノオが生まれて初めて他者に対し愛情を持った事が大きな要因だ。愛しいおなごが見せたギャップ。しかもそれは色香を多く含んだものだった。それ故にスサノオは激しく動揺し、感情が初めて動いたのだ」




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Commented by とーり。 at 2016-01-24 13:10 x
神話ラヴこそばゆいです(´Д`* )
素戔嗚尊と稲田姫、出会うべくして出会ったのですねぇ。。musicaさんにとっては両親のなれそめを見ている感覚でしょうか(*^_^*)
Commented by garoumusica at 2016-01-24 22:31
> とーり。さん コメントありがとうございます。

両親の馴れ初めというかなんと言うか。
どっちかって言うと、私の勉強の為におっさんsがでっち上げたんじゃないか?という思いの方が強いです( ̄▽ ̄)
おっさんsは嘘も方便をサラリと使うんで・・・(´・_・`)
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by garoumusica | 2016-01-24 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(2)

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