稲田姫物語 オロチ退治前日の話 その5。

本日も稲田姫物語の続きです。



スサノオは決意を込めた声でクシナダに告げた。

「私は明日、君を爪櫛に変えようと思う」

「・・・」

スサノオはクシナダの後ろ姿を見つめた。

クシナダはしばらく沈黙した後、身体を前に向けたまま顔を心持ち後ろに向けると、スサノオに問うた。

「・・・スサノオノミコト?失礼ではございますが、先にお尋ねしたい事があります」

「なんだね?」

「スサノオノミコトがヤマタノオロチと対決されている間、領地の皆を避難させるというのはどういう事でしょうか?オロチの狙いはわたくしだけであるはずなのに、なに故皆まで避難させる必要があるのでしょう」

「クシナダ姫、どこでそれを・・・」

スサノオの顔に困惑の色が浮かんだ。

「それからもうひとつ。『万が一私が破れた際には、クシナダは一度消える。だが九度目の日が昇る時に再び現れる』とはどういう事でしょう」

スサノオはそのクシナダの言葉を聞いた瞬間にカッと怒りが込み上げ、胸の中に激しく燃え盛る炎が上がった。

「アシナヅチめ!!!」

スサノオは地の底から轟いて来たかの様な唸りにも似た声を上げると、目にも留まらぬ速さで傍らに置いていた剣を握り、鞘を抜きながら立ち上がった。

スサノオは昨夜クシナダの父であるアシナヅチに、クシナダに聞かれぬ様にこっそりと計画を告げていた。

そしてクシナダにいらぬ心配をさせぬ様、口止めをしたはずだった。

(にも関わらず、当の本人が知っているとは何事だ!)

「あの男許せぬ!叩き斬ってくれる!!!」

スサノオは鞘を床に激しく叩きつけると剣を一度宙で払い、入り口に向かい歩きだした。



「お待ちくださいませ」

クシナダが静かに声をかけた。

「止めてくれるな!」

「お待ちくださいませ」

スサノオはクシナダを振り返り、そして我が目を疑った。

そこには片膝を立てどっしりと座り、スサノオの目を真っ直ぐに見るクシナダがいた。

「・・・っ」

先程まではどこか儚く、触れれば今にも倒れてしまいそうな風情を醸し出していた乙女は、今やこの粗暴な乱暴者より静かなるも力強い気迫を放っていた。

「父がわたくしに話した訳ではありませぬ。故にスサノオノミコトが父を斬る所以は何処にもございませぬ。どうぞ剣を鞘にお収めくださいませ」

「・・・」

(なんだ?この気迫は・・・)

力強く有無を言わさぬ調子でクシナダは続けた。

「剣を鞘に収めてお座りくださいませ」

クシナダは自分の前の床を指でトントンと叩いた。

「剣を収め、お座りください」

「・・・」

スサノオはその気迫に逆らう事が出来ず、バツが悪そうに鞘を拾い剣を収めると、クシナダから目線を外し少々粗暴に座った。



クシナダの気迫に気圧され視線を合わせられぬまま、スサノオは問うた。

「それではその話を誰に聞いたというのだ?」

「・・・」

クシナダは何も言わなかった。

スサノオは少々苛ついた様子で、クシナダに目線を向けながら再度問うた。

「誰に聞いたと・・・」

クシナダは顔を耳まで赤く染め、両手で顔を覆っていた。

「ク、クシナダ姫・・・?」

スサノオは先程までとの態度の違いに動揺しながら、名前を呼んだ。

「クシナダ姫?一体如何された?クシナダ姫?」

「・・・しました・・・」

クシナダは両手で顔を覆ったまま蚊の鳴くような声で言った。

「なんだ?一体どうしたのだ?ん?」

スサノオは思わず優しい声色で聞いた。

「わたくしが盗み聞きいたしました・・・」

「盗み聞き!?まさかその様な」

「無作法な振る舞いをし、申し訳ありませぬ!」

クシナダは声を上げた。

「いや、責めているのではない。私はあの時そなたの気配をまったく感じなかった。その事が剣を扱う者としては驚きなのだが」

クシナダは手を外すと真っ赤な顔で言った。



「わたくしは何故か幼い頃から人に気配を感じぬと驚かれる事がしばしばありました」

「うむ、確かに君の気配を一切感じなかった」

「それはまるで身体から抜け出た魂だけの存在の様だと・・・」

「それは言い得て妙だが・・・」

「近しい間柄の者からは『御魂ちゃん』と呼ばれております・・・」

「御魂ちゃん・・・」

スサノオはここは笑ってはいけないと、眉を寄せわざとらしく神妙な顔をした。

「それ故にスサノオノミコトと父が話されている時に盗み聞く事が出来たのでございます・・・」

(それもおそらくヤマタノオロチ故だろうなぁ・・・)

屋敷の奥深くに隠されたこのおなごは、無意識にヤマタノオロチに気配を悟られぬ様息を殺して生きてきたのだろう。

そして皆に御魂ちゃんと呼ばれる程、気配を消す事が出来る様になった。

(気の毒な・・・)

「話は分かった、もう気にするでない。私の方こそ早合点をしてしまい申し訳なかった。すまない、この通りだ」

スサノオは両手を胡座をかいた膝の上に置くと、ペコリと頭を下げた。

「いいえ、わたくしの方こそ申し訳ありませんでした。・・・はぁ、それにしても先程のスサノオノミコトの剣幕は恐ろしゅうございましたなぁ・・・」

クシナダは笑顔を浮かべながら身体の力を抜き、だらんとした様子を見せて言った。

スサノオは目線を逸らし、ぼそりと呟いた。

「私も恐ろしかったよ・・・、本当に・・・」

「・・・?」

(私は母上にお会いした事が無い故叱られた経験は無いが、母上がいらっしゃったらきっとあの様な感じで叱られたのであろうな)

(私は新妻と共に母をも手に入れたという事か・・・。クシナダ姫、そなたは不思議なおなごだ)

スサノオはクシナダを無言で見つめていた。

「・・・それでは次はスサノオノミコトがわたくしの質問に答える番です。何故この地の皆まで避難する必要があるのですか?」



スサノオはクシナダに全てを伝える事にした。

(このおなごは私に守られるだけの存在ではない。共に立ち、同じ方向を見つめ、考えを共有する事の出来るおなごだ。これからはこのおなごには隠し立てせず全てを共有しよう)

(まぁ隠そうとしても、きっとこのおなごには見抜かれてしまうだろう。気配を消す事も得意だしな)


明日も続きます。


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musica 「まだ終わらない・・・。長いですねぇ・・・」

スーさん 「降ろすのは一瞬だがそれを文字に直そうとすると時間が掛かるものだ」

m 「今回は稲ちゃんのターンでしたが、本来のものはこの半分近くがスーさんと稲ちゃんのいちゃいちゃでした。もういい加減ダレて来たので、全部カット!」

ス 「酷いものだね・・・」



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by garoumusica | 2016-01-26 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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