稲田姫物語 オロチ退治前日の話 その6。

本日も稲田姫物語の続きです。



スサノオは向かい合って座るクシナダを見つめていた。

クシナダには全てを共有しようとは思うものの、その結果クシナダを傷つける事にならないか、という事が一番の悩みだった。

何故ならクシナダが口にした計画は、スサノオが敗れた場合をも想定したものだったからだ。

それはもちろん死を意味する。

その死屍はヤマタノオロチに食べ尽くされ、僅かな肉片も残らぬだろう。

(自分の生の代償が他者の死である事をこのおなごは望まぬだろう)

スサノオはどの様に説明すれば良いものかと思いあぐねていた。



スサノオはクシナダを見つめたまま右肘を胡座をかいた右膝に乗せて頬杖をつくと、溜息をひとつついた。

「スサノオノミコト?如何なさいました?」

「うむ・・・」

(あまり沈黙をしているとかえって不安を煽ろう・・・。如何したものか・・・)

スサノオはクシナダを見つめていると、クシナダの胸に光る薄紅の玉が目に入った。

(・・・それにしても美しいおなごだ。薄紅の玉もよく似合っておる)

スサノオが僅かに漏らした笑みをクシナダは見逃さなかった。

「 何が可笑しいのですか?」

「ん?あぁ・・・。いや、薄紅の玉が君によく似合っておるなぁと思って。本当に君は美しいなぁ」

突然もたらされたその言葉に頬を染めたクシナダは、咄嗟に薄紅の玉を掴むと上着の襟口からその玉をパッと服の中に投げ入れ、プイッと顔を背けた。

「えっ!?」

スサノオは驚愕のあまり思わず姿勢を正すと、

「なに故隠すのだ、君は!」

と叫び、ポカンとクシナダを見つめた。

クシナダは顔を背けたまま言った。

「高天原の方は皆、その様に口がお上手なのでしょうか?」

「いや、口が上手い下手云々ではなく、私は美しいから美しいと言っただけではないか」

「ほら!またその様な戯言を・・・」

「戯言など・・・。私は本当の事しか言わぬぞ」

スサノオは再び頬杖をつくと笑いながら言った。

するとクシナダはサッとスサノオの方へと顔を向けその身を乗り出すと、スサノオの瞳をじっと見つめ、機を逃さずに言った。

「スサノオノミコト・・・。それではわたくしに嘘偽りなく説明してくださいませ」



スサノオはハッとした表情を浮かべると同時に、先程ついたばかりの頬杖を外した。

(やられた・・・)

気がついた時には完全に誘導されていた。

(このおなごは想像以上に聡い。これでは隠し立てをしてもすぐに暴かれよう)

スサノオはクシナダの事を思い、説明を曖昧にしなんとか誤魔化す方法を考えていたが、それはもうやめる事とした。

スサノオは居住まいを正すと意を決してクシナダに語り掛けた。

「クシナダ姫」

「はい」

クシナダもスサノオにつられ居住まいを正した。

「まず念頭において欲しいのは、私はヤマタノオロチを討伐する自信がある、という事だ」

「はい」

クシナダはスサノオの言葉ひとつひとつに頷いていった。

「それも必ずだ」

「はい」

「決して己の命を差し出して君を救おうとしているのでは無い」

「はい」

「頭の中では討伐後に君と共に行うであろう事で一杯だ」

「はい。ふふふ・・・」

クシナダは目を細めて笑った。

スサノオは宙で何かを指す様に人差し指を動かしながら続けた。

「君とあそこに行こう、ここに行こう、何を見せよう、何を話そう。そのような事で頭は一杯だ」

「・・・はい」

クシナダは恥ずかしそうに頷いた。



スサノオはクシナダを諭す様に言った。

「だが、何か事を起こそうとする場合は最悪の事態をも想定して動かねばならぬ。特に誰かと争う時にはそうだ。相手よりも智略で勝らねばならぬ」

「はい」

「それ故にまず領民には安全な場所へ隠れてもらう事とした」

「ですが、両親に造らせた強いお酒でオロチを酔わす手筈では?ここに来る前に酔いつぶれましょう?」

「先程私はクシナダ姫を爪櫛に変えると言った。変える理由はまた後で説明するが、ヤマタノオロチは姫の姿を確認しなければ酒を飲まぬかもしれぬ。まぁ十中八九奴は飲む筈だ。その為に私も言葉を尽くす」

「はい」

「だが、万が一酒を飲まなかった場合は、奴は君を探しにここまでやって来るだろう。それに奴に協力する者がいる可能性も無きにしも非ずだ。奴が酒を飲んだとしてもその者がここに来るやもしれぬ」

(もちろん私が敗れた場合にもここへ来るだろうが・・・)

スサノオはその事には触れずに話を続けた。

「ただ探すだけならまだ良いが、恐らく奴はここを壊滅させる。人も巻き添えをくらうだろう。それ故に皆には身を隠してもらう。万が一の為にね」

「はい」

「それからもう一つ。『スサノオが敗れた後、クシナダは一度消える。しかし九度目の日を迎えたところでクシナダは戻る』だが・・・」

「はい」

スサノオは言葉を詰まらせた。

(伝えずに済むのなら出来れば・・・)

スサノオはクシナダをじっと見つめていた。

(どうしたものか・・・)

クシナダは微笑みながら小首を少々かしげると、

「スサノオノミコト・・・、わたくしはとうの昔に覚悟は出来ております」

と、慈愛に満ちた目でスサノオを見つめた。

(それは己が死ぬ覚悟だろう・・・)

スサノオは無言でクシナダを見つめ溜息をつくと、話を再開した。

「クシナダ姫、君を爪櫛に変える理由は簡単だ。爪櫛は激しい動きをしても簡単には外れぬ。だが手で外そうとすれば簡単に外れる。そういう理由だ」

「・・・」

「爪櫛に変えた君を私の美豆良に挿す。君は爪櫛を誰かに預けたりどこかに隠した方が安全ではないかと思うかもしれない。だが、それではいけない。私の側に置かなければならないのだ」

「なに故にございますか?」

スサノオはクシナダを見つめて言った。

「私の最期の時に、私がすぐに手にする事が出来る場所へ置いておく必要があるからだ。最期に残された力であっても簡単に抜く事が出来、手中に収める事が出来る物、それが爪櫛だ」


明日も続きます。


☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆


musica 「は〜〜〜、やっと終わりが見えてきました。明日か明後日には終わりますかね?」

スーさん 「そうだな、スサノオとクシナダの心の触れ合いを書かなければ、終わるだろうな」

m 「心の触れ合い?いちゃいちゃでしょ?」

ス 「それもまた心の触れ合いだろう?」

m 「本人からすればでしょ?周りから見ればただの公開いちゃいちゃ!」

ス 「私の自慢の妻だからね、そうもなろう」



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by garoumusica | 2016-01-27 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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