稲田姫物語 オロチ退治前日の話 その8。

本日も稲田姫物語の続きです。




「この地の者達は貴女が『最後の犠牲者』だと思い込んでいるが、本当に貴女で『最後』なのか?」

クシナダはハッと表情を変えた。

(そう言われてみればそうだわ・・・。父上の子は私が最後だけれども、犠牲者が私で最後とは限らない・・・)

スサノオはクシナダの表情の変化を見逃さなかった。

(流石だな、もう我が意図を察したか)

スサノオは微かに笑みを浮かべると、すぐさま表情を戻し話を続けた。

「確かに貴女の直系の一族では貴女が『最後の姫』だ。だがどうだ?この付近にはまだまだおなごが居る。貴女と年の近い者も居れば年若な者も居る。貴女の次となり得るおなごは沢山居るのではないか?」

クシナダは顔を青くしてスサノオを見つめていた。

「一体誰が貴女で終わりだと言った?ヤマタノオロチがそう言ったのか?『最後の姫』とは一体何だ?どういう意味で使っていた?ただ単にアシナヅチの娘が貴女で最後なだけではないか?」

スサノオは畳み掛ける様に続ける。

「貴女は『最後の姫』という事に気を取られ、重要な事を忘れている」

「重要な事?」

「何か分かるか?」

クシナダは顔をふるふると横に振る。

「貴女は『最後の姫』である前に『首長の子』であるという事だ。しかも今となっては『首長に残された唯一の子』だ。貴女はこの地を治める首長の大事な跡取りだろう?」

(その通りだ。私は『最後の姫』である前に『首長に残された唯一の子』・・・)

スサノオは己の贈った玉を服の上から握り締め、一生懸命に己の言葉を理解しようとしているクシナダを慈愛に満ちた目で見つめていた。

その眼差しは弟子を見つめる師そのものだ。

(いい反応だ・・・。このおなごは私の話す内容にきちんとついて来ている。もう一踏ん張りでこのおなごの意識は覚醒する・・・)

(しっかりついて来てくだされよ、姫)

スサノオは更に追い討ちをかけた。



「貴女は死の覚悟が出来ている、生に執着は無いと言う。うむ、そうであろう。『最後の姫』としてその様に生きてきたからね。死ねば貴女は終わりだ。だが貴女以外の者は貴女の死後もこの地に残る。そしてその者達にはこれから何が起こるか。恐らくこれまでも水面下では繰り広げられていたと思われるが、貴女の死後は跡目争いが表立って行われよう」

クシナダは玉を握り締めながらスサノオの話をひたすらに聞いていた。

「テナヅチの歳を考えればあの者にはもう子は望めぬ。アシナヅチは妾をとらねばなるまい。すんなり妾が決まれば良いが、それでもなんらかの諍いは起ころう。しかも子が出来る保証は無い」

「母上・・・」

クシナダは母の境遇を考えると胸が痛んだ。

「親族の中から養子にと立候補する者も出よう。または首長を取り替えようという動きも出てこよう。つまり起こるのは内乱だ。更には他の地の者もこれに乗じて侵略して来るかもしれぬ」

「内乱に侵略・・・」

スサノオの言葉には今までの己の人生には関わりの無かった言葉が並び、クシナダには少々現実感が無かった。

まるで夢の中で話を聞いている様な感覚に陥っていた。



(頑張ってついて来い。もう一踏ん張りだ)

スサノオはクシナダの呟きに答える様に言った。

「そうだ。既にその計画は進んでいると見た方が良い。貴女を最後に首長の子はいなくなるという事も、ヤマタノオロチが現れる時期も知っているだろうからね。まぁ一言でまとめて言えば、貴女の死後この地は確実に混乱する」

「混乱・・・」

「今貴女に必要なのは『最後の姫』として死ぬ覚悟ではなく、『首長に残された唯一の子』としての自覚だ」

「首長に残された・・・」

「そうだ。貴女が真に首長の唯一の子としての自覚があれば、またはこの地に生きる者達を守らなければならない立場にある事を自覚していれば、私に立ち去れ等と言えるはずがない。貴女はこの地の者たちを護る為、この地に混乱を招かぬ為、一心不乱に生き延びる術を探しているはずだ。ヤマタノオロチを退治するという男が現れれば、その男を身代わりにしてでも自分が生き延び様とするはずだ」

「・・・」

「貴女は『最後の姫』という称号に囚われ過ぎて己の立場を忘れている。だがそれはある意味仕方のない事だ。周りに居る者達が貴女をその様に育てたからね。だが今、貴女を取り巻く環境は大きく変わった」

クシナダは素直な疑問を口にした。

「なに故にございますか?」

スサノオはクシナダの目を見つめながら、見る者を惚れ惚れとさせる笑みを浮かべながら言った。

「この私が貴女の前に現れたからだ」



クシナダはその美しい目を大きく見開いた。

「貴方様がわたくしの前に・・・」

「今まで現れる事の無かったヤマタノオロチを退治出来る男が、貴女の前に現れたからだ」

「ヤマタノオロチを退治出来る男・・・」

確かに、スサノオがこの地に訪れるまではヤマタノオロチは不可抗力であった。

この地の者達はただただアシナヅチの娘達が犠牲になる姿を見届けるしかなかった。

「いいかい?貴女と私が出会ってしまった時点で事態は急変した。貴女を取り巻く環境は一変したのだ。貴女と私が出会った時点で、貴女は『最後の姫』ではなくただの『首長の唯一の子』へと変わったのだ」

「貴方様と出会った時点で」

スサノオは威厳を込めた声で言った。

「クシナダ姫よ、覚悟を決められよ」

「覚悟・・・」

「これからもずっと、生き延びる覚悟だ」

(私と共に・・・)

スサノオはクシナダがそう思ってくれる事を、心の底から願っていた。

(さぁ、美しき姫よ。私が貴女に伝えられる事はここまでだ。後はあなた自身の手で掴んでくだされ)




明日も続きます。


∋(´・ω・)o/・*:..。o○☆゚+。*゚¨゚゚・*:..。o○☆゚+。*゚¨゚゚・*:..。o○☆゚+。*


musica 「今回はスーさんの指導者としての覚醒の回でしたね!」

スーさん 「フフフ」

m 「なんて言うか、今のスーさんと似たような追い詰め方をするので、書きながら怒られている気分になりました・・・」

ス 「これが私のお仕事です」

m 「何千年もよく飽きないものだ」



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by garoumusica | 2016-01-29 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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