稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その1。

本日から稲田姫物語 高天原編です。

と言ってもまぁ、スーさん達からの導入ですが・・・。




(幸せだ・・・)

柔らかな夕刻の日差しを浴びながら、スサノオは幸せをひしひしと感じていた。

スサノオとクシナダはあれからしばらくの間、屋内でスサノオの髪のほつれを解いていたが、ついに屋敷の中に陽差しが入り込まなくなった為に、陽の当たる場所を求めて外へ出た。

二人は適当な場所を見つけると、それからまたしばらくの間は髪のほつれを解いていたが、余りの作業の進まなさに業を煮やしたクシナダの、

「刈っちゃいましょう!」

という一言で、スサノオの髪のほつれは剣で刈り取られる事となった。

(なかなか大胆な発想をする・・・。それもまたなんと魅力的な・・・)

スサノオは元は己の身体の一部だったその毛の塊を弄びながら、新妻となる美しきおなごが己の髪を結う様子を横目で見ていた。

クシナダは生真面目な表情を浮かべながらその愛らしい唇を軽く突き出し、長さにばらつきのあるスサノオの髪をなんとかまとめようと苦心していた。

(幸せだ・・・。なんと幸せなひと時であろう・・・)

スサノオは初めて味わう幸福感を噛み締めながら、高天原にいた頃からこれまでの事を回想し始めた。



この世に生まれてからというもの、スサノオは数々の狼藉を働き、挙げ句の果てに高天原を追い出されてしまった。

失意のうちにこの葦原中国を彷徨い歩いた末、ようやく巡り逢ったこの愛しき姫。

そしてヤマタノオロチとの対決を前に、己はこれまでに味わった事の無かった充足感に満たされている。

人生とはなんと数奇なものか・・・。

そして人の心とはなんと単純なものか・・・。

今までの己の人生に起きたすべての事は、この姫と巡り逢う為だけに用意されていたのではないかとすら思えてしまうから不思議だ。



特に姉が岩戸に隠れられてしまってからの流れなどがそうだ。

姉に狼藉を働き天上天下に多大な迷惑を掛けてしまった事で、高天原の連中の堪忍袋の緒が切れてしまい、ついに高天原を追い出されてしまったが、この時追い出されなければこの麗しきクシナダと出会う事は無かった。

追い出された当初は爪を剥ぎ取られた指が痛む度に恨み、空腹に襲われては恨み、寒さに耐えられなくなっては恨み・・・。

ひたすらあの連中を恨み続けた。

だが、今となってはただただ感謝しか無かった。

(皆が私を高天原から追い出してくれたおかげで、私はこの美しき姫君と出逢い、そして己の心の充足感を満たす事が出来た)

そして何より姉に対して感謝していた。

(姉上がこの剣を持たせてくれたからこそ、クシナダ姫を守る事が出来る。姉上が皆の反対を押し切って持たせてくれたからこそ・・・)

(姉上が持たせてくれたからこそ・・・?)



ふと、スサノオは疑問を抱いた。

(姉上はなに故この剣を持たせてくれたのだろう?)

スサノオはいつでも抜ける様、己の傍に肌身離さず携えているその剣に視線を向けた。

(高天原が追放されてすぐ、私は姉上の持たせてくれたこの剣でオオゲツヒメを斬り殺してしまったぞ?)

(先見の明のある姉上の事だ、私が剣を振るってしまう事ぐらい分かっていたはずだが・・・)

そしてスサノオの心の中にある疑惑が生まれた。

(まさか・・・)

スサノオはオオゲツヒメを殺してしまったが、殺してしまった結果、様々な穀物の種子や蚕を手に入れる事が出来た・・・。

スサノオは持ち運びが出来る量は持ち出したが、残った物の行方は知らない。

あの時、オオゲツヒメの亡骸から溢れ出る種子はとどまる所を知らなかった。

(まさか・・・)

(仕組まれたか?)

そう思うや否や、スサノオは勢い良く四方八方を見回した。



「あーっ!スサノオノミコト〜!」

突如クシナダが声を上げた。

スサノオが突然動いてしまった為に、ようやく纏めかけた髪がばらけてしまった様だ。

「あっ・・・」

「も〜っ!あれだけ動かないでくださいとお願いしたではありませんか〜・・・」

「も、申し訳ない・・・」

クシナダの剣幕に思わずスサノオは素直に謝った。

(あぁ・・・、怒る姿もまたなんと初々しく愛らしいのだ・・・)

初めて見せるクシナダの怒る姿にスサノオは見惚れていた。

クシナダは溜息をひとつ吐くとスサノオの身体に軽く体当たりをし、それからスサノオの身体にもたれかかったまま呟く様に言った。

「もう・・・、また始めからやり直しでございます・・・」

クシナダは頰をぷっくりと膨らましながら姿勢を正すと、再びスサノオの髪に櫛を通し髪を纏め始めた。

その愛らしい一連の様子にスサノオは思わず頰を緩めた。

(愛らしい、なんと愛らしい仕草をされるのだ・・・)

(この姫の愛らしさに己は蕩けてしまいそうだ。その一挙一動に目が離せぬ・・・)

クシナダのその膨れた頬を指でつつきたい衝動をスサノオはなんとか抑えると、クシナダが己の髪を結いやすい様に身体を傾けた。

スサノオの気遣いに気がついたクシナダはにっこりと微笑んで言った。

「ありがとう、スサノオノミコト」

「いや・・・」

(なんと察しの良いおなごだ・・・。このおなごのすべてが愛おしい・・・)

と惚けると同時にスサノオは目だけをある一点に向け、ギロリと睨みを利かせた。

そして心の中で念じた。

『姉上!』



「あ・・・」

スサノオに姉上と呼び掛けられた女が声を上げた。

「あやつ、ようやく気がつきおったわ」

「気がつきましたねぇ・・・。なんだか凄い形相で此方を睨んでおりますなぁ・・・」

『兄上も居るのか!』


明日も続きます。


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musica  「えー、本日より高天原編が始まりましたが、なんですか?こののろけの嵐は・・・」

スーさん  「愛しい人を褒めて何が悪いのかね?」

m  「わーお・・・」



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Commented by とーり。 at 2016-02-01 16:48 x
新章の始まりですね〜( ^ω^ )

このイチャコラ( ;´Д`)パラレルワールドだとしてもなんとリア充なことか。。
どんな顔でmusicaさんが見ておられるのかと思うと、、えぇ。
Commented by garoumusica at 2016-02-01 20:56
> とーり。さん コメントありがとうございます。

イチャコラ。
週末は絵の方が大変なので、ひたすらキーボードを打って早く終わらせようって感じで、結構事務的に文字にしていきました(´・_・`)
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by garoumusica | 2016-02-01 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(2)

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