稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その2。

本日は高天原編の続きです。




スサノオに姉上と呼ばれた女・アマテラスは、入室出来る者の限られた自室での私的な時間故か、上質な素材を使用したものではあるものの簡素な服を着、豊かで美しい黒髪は結わず下ろされ、そして脇息にもたれ掛かりながらゆったりとした姿勢で過ごしていた。

それからスサノオに兄と呼ばれた男・ツクヨミは、手には絵の描かれた団扇が握られ、見るからに質の良い豪華な刺繍のある派手やかな服を着、そしてアマテラスと同じ美しい黒髪は上半分を結び、残りを垂らしていた。

二人とも容姿端麗で、特にアマテラスはその名に相応しい華やかな顔立ちをしていた。

ツクヨミはアマテラスに比べるとやや華やかさに欠けるものの、姉弟である事が一目で分かる整った顔立ちをしていた。

二人が揃って人前に顔を出すと、その名の通りに太陽と月が人の姿を借りて高天原に降り立ったようだと口々に囁かれ、溜息を洩らされる程だった。

一方のスサノオは、髪と髭はだらしなく伸び放題で服も全く気を使わずにいた為か、残念ながら良い意味で人々の噂になる事は無かった。

が、スサノオが高天原を追放される際に、ようやくその評価が覆される事となった。

拷問により髭を綺麗に抜かれた顔は、髪をひとつに束ねた為に初めて人目に晒され、人々にやはりアマテラスの弟だったと思わせる整った顔には、拷問による疲労と痛みに耐える表情が相まって、何とも言えない色気を醸し出していた。

更に極め付けは、爪が剥がされてしまった為に上着の紐を結ぶ事が出来なかった結果、スサノオの引き締まった魅惑的な肉体を皆に披露する事となり、高天原を追放される姿を嘲笑おうと集まった人々は、かえってその溢れ出る色気に目を奪われてしまった。



さて、今この二人が揃っているアマテラスの私室には、極々質素な家具と調度品が数点あるだけだった。

それもまた最上の品質のものではあるのだが・・・。

しかしこの簡素な部屋に一際目を引く物があった。

大小様々な大きさの銅鏡、それらが背の低い調度品の上に並べてあるのだ。

ざっと数えただけでも二十はあるだろうか・・・。

それだけでも異様な光景ではあるが、特に大きな鏡が映し出しているモノがそれらの異様さを更に際立たせていた。

鏡に映るモノ、それは、こちらを睨みつけているスサノオだった。



「お〜い、スサノオ〜。久し振りだね〜」

ツクヨミはのん気そうに鏡に向かって団扇を振った。

『久し振りではないわ!何故こんなにも鮮明に繋がる事が出来るのだ!』

「それは我々姉弟の絆故であろう?」

『適当を申すな、姉上!』

「これスサノオ。姉上に対して何という言い草だ?」

鏡の向こうのスサノオは何かに気がついたかの様な素振りを見せると、再び鏡のこちら側、アマテラス達を睨み付けて言った。

『爪だな?あの時私の爪を剥いだのはこの為だったのだな?』

「何を言っておるのか、さっぱりと分からぬなぁ・・・。のう?ツクヨミ」

「はい、姉上」

嘘だった。

二人の見つめる鏡の裏側には、スサノオの剥がされた爪がしっかりと貼り付けられていた。

妖術を操る名手であるアマテラスであっても、高天原と葦原中国との距離では声は届いてもその姿をきちんと追う事は難しかった。

だが、追いたい者の身体の一部があれば話は別だ。

身体の一部が呼応し合い、その結果、まるで相手が側にいるかの様に監視する事が出来る。

その為に処罰と称してスサノオの爪を少々頂いたのだった。

まぁ少々と言っても手足の爪、全部ではあるが・・・。



『謀ったな!』

スサノオの発言を聞いたアマテラスは、少々呆れたように言った。

「謀ったなって、お前・・・。そもそもお前は監視も無しに己が野放しにされると思っておったのか?お前のどこに信用があるのだ?ん?」

『それは・・・』

スサノオは二の句が継げずに黙り込んでしまった。

と言ってもスサノオは頭の中での会話のみで口は一切開いてはいなかった為、傍から見れば常に黙り込んでいるかの様に見えるのだが・・・。

アマテラスはそんなスサノオの様子を物ともせず、ズケズケと言った。

「お前はいつもガバガバなのじゃ。クシナダの気配すら察知出来ぬ癖に、な〜にが『剣を扱う者として驚きだ・・・』じゃ、馬鹿者め。片腹痛いわ」

すると、突如鏡がスサノオの姿を映さなくなった。

「あ・・・、あやつめ結界を張りおったわ。小癪な・・・」

「相変わらず短気ですなぁ・・・。まぁ気持ちは分かりますが」

「フン、愚か者め。眼はひとつだけだと思うなよ」

アマテラスは何も映さなくなった鏡に向かって、手の平を下にして水平に一度降ると、今度は別の角度からスサノオとクシナダが映し出された。

「だからお前はガバガバだと言うのだ」



「はい!片側の美豆良が完成いたしました」

クシナダは安堵の表情を浮かべながら言った。

スサノオは己の美豆良を軽く撫でると、

「実は美豆良をするのは初めてなのだ」

と言った。

「まぁ、左様にございますか?」

「うむ。これまでは好き放題に伸ばし、そのままにしていた。まぁ暑ければ適当に束ねてはいたけどね」

「それであの様なほつれが・・・」

クシナダはスサノオの手にある毛の塊に目をやった。

「ハハハ、でもこれからはきちんとせねばならぬな」

「なに故にございますか?」

「そりゃあ、貴女の様な美しきおなごの夫となるのだからな。貴女の横に立つに相応しい身なりをせねば」

クシナダは頰を赤らめた。

そして聞こえるか聞こえないかの大きさの声で呟いた。

「・・・スサノオノミコトはそのままでも素敵にございます・・・」

「ん?何か言ったかい?」

「なんでもございませぬ!」

クシナダは慌てた様子で両手を胸の前で左右に振りながら言った。

その様子を見たスサノオはハッと気がついた。

「やはり美豆良は似合わぬかな・・・」

「そんな事はありませぬ!あの、とても凛々しくていらっしゃって、あの、とてもお似合いです・・・」

と言うと、クシナダは顔を耳まで赤く染め、俯いてしまった。

その様子を見ていたスサノオも顔を赤く染めながら言った。

「貴女も薄紅の玉が良く似合って、美しいぞ・・・」



アマテラスとツクヨミはその様子の一部始終を見ながら沈黙していた。

「・・・こやつら、デレデレではないか。見よ、スサノオのあの顔を。だらしなく鼻の下を伸ばしよって」

「見ていられませんなぁ・・・」

とは言いながらも、仲睦まじいスサノオとクシナダの姿をアマテラスはどこか嬉しそうに見ていた。

その様子を見ながらツクヨミが言った。

「それにしても嬉しそうにご覧になるのですね」

「ん?あぁ・・・」

アマテラスは一瞬不意を突かれた様な表情を浮かべた。

そして、

「スサノオのこの様な顔、高天原に居た頃には終ぞ拝めなかったからな」

と少々寂しそうな笑みを浮かべながら言った。

「確かにそうですね、私も初めてかもしれませんなぁ・・・。ですがスサノオが幸せそうでよかった」

二人はしばらくの間沈黙し、鏡に映る二人の様子を満足そうに見ていた。

「姉上はスサノオの母親代わりでしたから、婿に出す気分ですか?」

「ハハハ・・・」

アマテラスはその華やかな顔に晴れやかな笑顔を浮かべた。

「して・・・」

ツクヨミはそれまで浮かべていた穏やかな表情を消し、団扇で口元を隠すと、にこにこと嬉しそうに鏡を覗くアマテラスに尋ねた。

「スサノオの勝機は如何程で?」



明日も続きます。


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musica 「おかしいですね、2回で終わるはずだったのに・・・(´・_・`)」

スーさん 「君はもうあと何回だとか宣言するのを止めたらどうかね?」

m 「・・・」



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Commented by わさび at 2016-02-02 15:18 x
終わってしまうのが寂しいデレデレのろけシリーズ(?)でしたので
新展開、そして続編開始(?)が嬉しい一読者です。
なんだかより物語として読みやすくなってきているような・・・?
日本神話に全く教養のない私も楽しみにしております!
のろけ話って大好きです。
Commented by garoumusica at 2016-02-02 16:19
> わさびさん コメントありがとうございます。

アマテラねぇちゃん×つっくん編は担当が変わってると思います。
スーさん→つっくん。
だから物語らしくなったのかもです(`・ω・´)
前のはとにかく学ばせようというスーさんの親心が満載でしたから・・・(´・_・`)
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by garoumusica | 2016-02-02 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(2)

目に見えない厳ついおっさんと絵描きの会話。それから大変申し訳ありませんが、本サイト内の画像、写真の無断転載・転用を禁止させていただいております。


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