稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その3。

本日も高天原編の続きです。




ツクヨミはそれまで浮かべていた穏やかな表情を消し、団扇で口元を隠すと、にこにこと嬉しそうに鏡を覗くアマテラスに尋ねた。

「スサノオの勝機は如何程で?」

「・・・」

ツクヨミの質問を聞くとアマテラスの顔から笑顔が消え、そしてその視線を静かに鏡からツクヨミへと移した。

「それはスサノオ次第よ・・・」

その目にはどこか挑発を感じさせるものがあった。

ツクヨミもアマテラスの瞳をじっと見つめ返す。

「・・・それもそうでございますな」

ツクヨミは暑い訳ではなかったが、なんとなしにゆっくりと団扇を扇ぎ始めた。

しばしの間二人の間に沈黙が流れていたが、次の瞬間、鏡から聞こえたスサノオを注意するクシナダの声が沈黙を破った。

どうやら二人はもう片方の美豆良に取り掛かり始めたが、スサノオがつい動いてしまったらしい。

アマテラスは鏡に映る仲睦まじい二人を見ながら言った。

「まぁ・・・、あやつに婚礼の祝いの品でも用意してやれ」

ツクヨミは目を見開き、団扇を扇ぐ手を止めた。

そしてにっこりと微笑むと再び団扇を扇ぎ始め、安堵した様に言った。

「左様にございますか」

アマテラスは脇息に肘をつきながら満足そうに鏡の中の二人を見ていた。



「はぁ・・・、それにしても姉上はお人が悪い・・・」

ツクヨミは溜息をつきながら言った。

「私は間違った事を言ってはおらぬぞ?何事も本人次第だろう?」

「その通りにございますが・・・」

「まぁ、スサノオとクシナダが心を通わせる事が出来た時点で、結果が決まった様なものだ」

「姫君への愛情故にございますか」

「そうだ」

それからまた二人は鏡に映るスサノオとクシナダを見た。

「・・・では、祝いの品はこの愛らしき姫君を美しく飾り立てる品々でよろしいですかな?」

「あぁ・・・、それはやめてやれ。この姫君を一番初めに飾り立てるのはスサノオの役目だ」

アマテラスはツクヨミの気の利かなさに少々呆れていた。

「この度はあの粗末な首飾りしか贈れなかったからな、あの子は。さぞかし無念だったろう・・・」

「なるほど」

ツクヨミは納得した。

「あの子は今回の無念を胸に身を粉にして働くであろうよ。美しい姫君を引き立てる品々を手に入れる為にも」

「あのスサノオがねぇ・・・。人は変わるものですなぁ・・・」

ツクヨミは溜息をつきながら鏡を覗き込んだ。

そして少々の疑惑を込めて言った。

「これぞ神の采配の為せる技ですな」



ツクヨミは今回のスサノオとクシナダの出逢いは、偶然にしては出来過ぎに感じていた。

もしやこの出逢いまでアマテラスが仕組んだものだったでは・・・。

「なに、私はスサノオとクシナダを巡り会わせただけ・・・。そこから何をどう発展させるかはあやつら次第よ」

やはりそうだったか・・・。

「それもそうですな・・・」

スサノオにとっては人生を変える幸いな出逢いではあったが、これだけの事を予め計算して事を動かすアマテラスに、僅かながらも恐ろしさを抱かずにはいられなかった。

更にツクヨミは探りを入れた。

「それにしてもよくこれ程までにスサノオにぴったりな姫君を見つけられたものですなぁ。それも国津神で」

「あぁ、ちょっとした噂を耳にしてな・・・」

アマテラスは少々声を潜め答えた。



「噂にございますか」

ツクヨミはアマテラスに身体を寄せる。

「うむ・・・。葦原中国に毎年同じ時期に出没する乙女を喰らうオロチがおり、そしてその体内に妖しき剣が隠されているらしい、とな」

「ほう、妖しき剣ですか・・・。それが明日スサノオが対決するヤマタノオロチで?」

「そうだ」

アマテラスは脇息に乗せた側の手を唇のすぐ下に添え、どこか遠くを見る様な目をしながら言った。

「奴は毎年同じ時期にあの場所へ乙女を喰らいに現れるまでは、どうも様々な土地を巡り巡っているらしい。葦原中国だけでなく潮の流れに乗って大陸の方までも行くそうだ」

「ほう・・・」

「その奴の体内に隠された剣、恐らく大陸かどこかで人を喰らった時に一緒の呑み込んだものらしいのだ」

「それは興味深いですなぁ」

「・・・」

アマテラスは顔をツクヨミに近づけると、目を妖しく細めながら更に声を潜めて言った。

「そなたは手に入れてみたくはならぬか?その妖しき剣を・・・」

ツクヨミはアマテラスのその魅惑的な瞳に吸い込まれそうだった。

「・・・姉上、スサノオとクシナダ姫を引き逢わせたのは、それが狙いでございますか?」

アマテラスはしばらくの間ツクヨミの眼を見つめると、フッと笑った。

「何を言う、利害の一致じゃ・・・」

「利害の一致・・・?」

ツクヨミはうわ言の様に言った。

「スサノオは己の運命を変える最愛の乙女を、私は大陸の妖しき剣を手に入れる事が出来るのだ。それを利害の一致と言わずに何と言う」

やはり恐ろしい・・・。

ツクヨミは弟を想う兄として言い返した。

「でもスサノオは何も知らされておらぬのでしょう?それでは利害の一致とは言えますまい」

「まぁ、全ては高天原の安寧の為だ。大陸の剣が手に入れば有事の際に向け色々と準備が出来よう」

「・・・」

「使える者は例え弟であろうとも使う。これが為政と言うものだ」



ツクヨミは黙り込んだ。

確かにそうだ。

アマテラスは高天原の最高神だ。

高天原の最高神としての務めを果たし、更には姉として弟にとって最も適した相手を充てがっている。

スサノオの処分に関しては追放ではなく極刑を望む声もあった。

それを抑え皆が納得する道を探し、そして見事に導いている。

そしてそれはアマテラスが手腕を発揮した結果だ。

(姉上を恐ろしく感じてしまうのは、偏に己の未熟さ故か・・・)

ツクヨミにはもう一つ確かめたい事があった。

「スサノオのオオゲツヒメ殺害に関してもそうでございましょう?」


明日も続きます。


(o・ω・o)ノ++++++++++ヽ(o・ω・o)


musica 「更新がちょっと遅れました、すみません・・・」

つっくん 「書きにくかったかい?」

m 「昨日は久し振りにアクセサリー作りをしまして」

つ 「自業自得ではないか・・・」



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by garoumusica | 2016-02-03 05:08 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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