稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その4。

本日も高天原編の続きです。




ツクヨミにはもう一つ確かめたい事があった。

「スサノオのオオゲツヒメ殺害に関してもそうでございましょう?」

アマテラスはツクヨミを見つめながら小さく笑った。

「それを聞いてどうする」

「それは・・・」

ツクヨミは言葉に窮した。

「先程からどうした。そなたの言葉は誘導ばかりではないか」

「・・・」

(やはり気がつかれていたか・・・)

「そんなに気になるのか?スサノオの事が」

「当たり前にございます。私のすぐ下の弟であり、竹馬の友でもありますれば」

ツクヨミの上には沢山の兄弟がいるが、仲が良いのは下の弟であるスサノオだけだった。

弟としてのスサノオは腕白で少々聞かん坊ではあったが、根が素直な為きちんと説明をすればツクヨミの言う事をよく聞いてくれた。

それに二人共女好きという共通点があったので、夜更けまで酒を交わしながらよく語り合ったものだった。

それ故にツクヨミはスサノオの高天原追放という処分には心を痛めていた。

もちろん姉であるアマテラスとも、今の様に私的な時間に相手の屋敷を行き来する仲ではあったものの、アマテラスの最高神としての立場故か、近頃は腹を割って話す事が出来なくなっていた。

「竹馬の友か・・・、フフフ・・・」

アマテラスは鏡を見つめると鏡の向こうに呼び掛けた。

「まぁ、気になるのは本人も同じであろう。のう?スサノオ!」

「え?」

ツクヨミは慌てて銅鏡を見た。

スサノオは二つ目の眼には気がついていなかったはず・・・。

だがツクヨミの予想に反し、銅鏡に映るスサノオはその声に応える様にこちらを振り返ると、再び睨みを利かせた。

そして次の瞬間、クシナダの手から零れ落ちた髪がスサノオの顔にぱさりと触れた。

「あ・・・」

「あ・・・」

鏡のこちら側の二人が同時に声をあげた。



スサノオは今迄経験のした事の無い程の緊張をしていた。

背中には嫌な汗が滴り落ちる。

(やってしまった・・・)

激しい後悔の念が己の胸を締め付ける。

あれ程までにクシナダに動くなと念を押されていたにもかかわらず、アマテラスの呼びかけに反応し、ついつい動いてしまった。

スサノオは己の未熟さに泣きたい気分だった。

そしてこの場から逃げ出したくて堪らなかった・・・。

クシナダの反応が怖くて仕方がない。

スサノオは横目でチラリと愛しいおなごの様子を見ると、よくやく纏めあげた髪を麻紐で括り付けようとしていた矢先の出来事だった様で、よっぽど心に衝撃を受けたのか、クシナダはスサノオの顔の近くに麻紐を持つ手を寄せたままの姿勢で固まっていた。

(怒鳴りつけられるか、泣かれるか・・・?)

スサノオが覚悟を決めた次の瞬間、クシナダは小さく溜息をつくとスサノオに向かって微笑んで見せた。

「スサノオノミコト?」

「・・・はい」

スサノオは思わず身を固くした。

「明日の事で頭が一杯なのでしょう?わたくしの為にありがとうございます」

「え・・・?」

クシナダの予想外の反応にスサノオは少々面を食らった。

「考えに集中し過ぎると、わたくしがお願いした事を忘れてしまわれるご様子・・・。それは致し方ありませぬ」

「う、うむ・・・」

スサノオは思わず頷いた。

「ついつい動いてしまうお気持ちも分かりますが、こう何度も動かれてしまうといつまで経っても美豆良が結えませんよ?」

「クシナダ姫・・・」

クシナダの気遣いが胸に刺さる。

「そろそろ日が陰る頃合いですので・・・」

と言うと、クシナダは手に持った麻紐の両端を持ち、スサノオの鼻の先でピンッと勢い良く張ってみせ、

「この紐で髪を縛るまではもう二度と動かないでくださいまし!」

と凄んだ。

「・・・はい」

大人しく従う余地しか残されていなかったので、スサノオは目を瞑り二度と動かぬ様にと精神統一を始めた。



その一部始終を見ていたアマテラスは、溜息をつきながら言った。

「・・・あのおなご、流石だな。私の補佐に欲しい位だ」

「えぇ、本当に・・・。私もあの美しいおなごに麻紐で縛られてみたいものですな、アイタッ!」

ツクヨミの後頭部にアマテラスの妖術が飛んだ。

「本当にどうしようもないな、お前のその女好きは!」

「アイタッ!」

アマテラスの妖術に遅れて、スサノオの放った妖術がツクヨミの後頭部を直撃した。

「あぁ、やはり時間に差が出るな・・・」

『その様ですな、姉上。ツクヨミよ、クシナダに手を出してみろ、只では置かぬぞ!』

目を瞑り精神統一をしている様に見えるスサノオが、二人の会話に入ってきた。

「冗談ですよ、も〜、冗談!」

ツクヨミ後頭部を摩りながら言った。

『何が冗談だ、馬鹿者!』

「お前が言うと冗談に聞こえぬのだ」

「姉上酷い!」

「お前の日頃の行い故だ!まったく。あー・・・、我々は一体何の話をしていたのだったか?」

アマテラスは思い出した様にツクヨミに問うた。

「オオゲツヒメにございますよ、姉上」

「おぉ、そうであったな」

「緊張感の欠ける会話ですなぁ・・・」

『クシナダが良い緩衝材となっておろう』

スサノオは少々自慢気に言った。

『何度この姫に心を救われた事か・・・』

「早くも尻に敷かれている様子が伺えるのぉ」

「それも可愛らしい尻でございますな。羨ましい限りで、アイタッ!」

『兄上はもう会話に入って来るな』

「あらやだ、酷い弟だこと・・・」

ツクヨミは団扇で口元を隠した。

「私も同感だ、お前は黙っておれ」

「えー・・・」

少々口が過ぎたツクヨミは、早速会話から除外される事となった。



『して姉上、兄上の言われていたオオゲツヒメの件について話してくだされ』

姉弟の楽しい会話はここまでだった。

「やはり聞いていたか・・・」

スサノオはツクヨミの呟きは無視し、アマテラスに単刀直入に聞いた。

『姉上は私がオオゲツヒメを殺害する様に仕向けられたのか?』

「・・・その通りだ」

アマテラスも単刀直入に答えた。

余りにもあっさりと認めたので、スサノオは二の句が継げなかった。

「私がそう仕向けた」

「姉上・・・」

ツクヨミはアマテラスを気遣う様に声を掛けた。

スサノオは昔から政治の裏側で繰り広げられるドロドロとした駆け引きが嫌いだった。

今回自分が都合よく使われたと知れば激しく怒るだろう。

しかもオオゲツヒメを殺害する様に仕向けられたのだから、その怒りの程は・・・。

ツクヨミは姉弟で諍い合うのはなんとしても阻止したかった。

元々仲の良い姉弟なのだから・・・。



だが、ツクヨミの予想に反してスサノオの反応は冷静であった。

『なに故だ?なに故その様に仕向けたのだ』

「あの女の亡骸から溢れ出る穀物の種を見ただろう」

『あぁ』

スサノオは己が斬り殺したオオゲツヒメの亡骸から、様々な穀物の種や蚕が溢れ出てくる様子を思い出していた。

「あれが理由だ。高天原の住人の食料や衣服の基となる種や蚕を、我々はあの女から供給を受けていた」

『・・・』

「だがあの女は必要最低限しか寄越さなかった。しかも寄越した種は一代しか実が付かぬものだった。その種を採取し育てようとしても、ろくな実が付かなかった。あの女は種に細工をし、毎年我々があの女を必要とする様に仕組んでいたのだ」

アマテラスは苦々しい表情を浮かべていた。

『そんな事が・・・』

「更には我々に要求する対価も年々増していった」

『それで?』

「ついに我々は決断した」

『殺害をか』

「そうだ。あの女が死に、魂が離れ、あの身体を操縦する者が居なくなれば、種は自動的に溢れ出すだろうと踏んでいた」

『そしてその予測通りになったという事か』

「そうだ。あの亡骸からはいまだに種や蚕が溢れ出ている。それもいずれは止むかもしれぬが、今回手に入った種は恐らく世代を繋ぐ事が出来るだろう」

『フン、なるほどな・・・』


明日も続きます。


∋(´・ω・)o/・*:..。o○☆゚+。*゚¨゚゚・*:..。o○☆゚+。*゚¨゚゚・*:..。o○☆゚+。*


musica 「最近あれ忘れていました」

スーさん 「それでは本日も良い一日を~」

m 「フフw」



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Commented by 健オタ at 2016-02-04 11:10 x
毎日の更新ご苦労様です❗️
もう一つの古事記を読んでいるようです✨
本当に面白い

こんな事言ったら神様に
怒られるかな
私は アマテラスが好きです❗️

やっぱり今年伊勢神宮にも行きたいな〜??
Commented by garoumusica at 2016-02-04 16:52
> 健オタさん コメントありがとうございます。

お気遣いありがとうございます(`・ω・´)
古事記のパラレルワールドって感じでw
私も言葉に直してると、ヘぇ〜って思う事があります。

アマテラねぇちゃん、嬉しいと思いますよ( ´ ▽ ` )ノ
お伊勢さん、行ってらっしゃいませです。
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by garoumusica | 2016-02-04 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(2)

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