稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その12。

本日は稲田姫物語の続きです。





アマテラスはつい先程までスサノオを映していた銅鏡の前で立ち尽くしていた。

今となってはただの炭の塊と成り果てたスサノオの爪を指で潰し、そしてその黒い粉を押し広げていた。

ツクヨミはアマテラスに声を掛ける。

「姉上にとってスサノオは可愛い弟ですから、その様子が気になるのは分かりますがね、夫婦の会話まで覗き見ようとするのは、少々趣味が悪うございますよ」

アマテラスはツクヨミを振り返ろうともせずに、そのままの姿勢でぽつりと呟いた。

「・・・私の可愛い弟はスサノオだけではないぞ?」

ツクヨミはその言葉を聞いた瞬間、背筋が凍っていく様を感じた。

(まさか・・・、私の事も・・・)

アマテラスはスサノオの残骸を指で広げながら、ツクヨミの心を見透かした様に言う。

「お前は女を連れ込み過ぎだ」

「姉上!」

ツクヨミは声を上げる。

アマテラスは溜息を吐きながら言う。

「毎日毎日違う女を屋敷に連れ込みおって。お前は盛った犬か?」

「姉上!」

ツクヨミは思わず声を荒げた。

その瞬間、まだ繋がりを保っていた銅鏡から、オモイカネが盛大に咽せ込む音が聞こえた。

アマテラスは小さく鼻で笑うと艶めかしい表情を浮かべながら、スサノオの残骸の付いた指でオモイカネの映る銅鏡の縁をなぞり始めた。

「どうした?オモイカネ・・・」

「い、いえ・・・、何も・・・」

その様子を見ていたツクヨミは思いついた様にアマテラスに問う。

「姉上・・・、姉上の部屋には沢山の銅鏡がありますが、これは全部覗き用ですか?」

「覗きとはなんと失礼な言い草・・・。高天原の安寧を見守るのが私の務め。皆の様子を逐一見守っておるだけだ」

「見守るとは・・・。それでは銅鏡を通じて会話をする時以外でも監視は可能だと?」

アマテラスは銅鏡に映る少々強張った表情を浮かべたオモイカネの顔の輪郭をなぞりながら言った。

「監視では無い、見守っておるのだ・・・」

オモイカネは銅鏡の中で顔を更に引きつらせる。

「どうした?オモイカネ・・・」

「あ・・・」

オモイカネはたった今思い出したかの様に言った。

「火急で探し出さなければならぬものを思い出したので、私はこれにて失礼いたします」

「そうか、もう去るのか?残念だな・・・。それが終わり次第皆を集め、スサノオの処罰撤回と名誉回復について説明せよ」

「はい・・・」

その言葉を残してオモイカネは姿を消した。

オモイカネはスサノオの時と同じ様にアマテラスの「眼」を探し出すつもりなのだろう。

アマテラスは銅鏡に仕掛けた妖術を解き、オモイカネとの繋がりを絶つと銅鏡に向かって言った。

「一生探しておれ、愚か者め」

アマテラスは鼻で笑う。

「お前如きに私の『眼』を見つけられると思うなよ」

「可哀想なオモイカネ・・・」

ツクヨミは少々同情をし呟いた。

アマテラスは指に付いた炭を払うと、ツクヨミの方へと振り返った。

「まぁ座れ。茶でも飲もう」

「もー・・・」



アマテラスは女官に二人分の飲み物を頼むと、再び脇息にもたれた。

その向かいにツクヨミは机越しに座る。

アマテラスが再び口を開く。

「ところであれは何だ?お前がスサノオに言った言葉」

「あれですかな?『次から次へと美しい花を渡り歩いていると、気がつけば毒に侵される』」

「そうだ。随分と心に傷を負っていた様ではないか。可哀想に、あの様子では当分クシナダと交われぬだろうよ」

「お可哀想な姫君・・・。愚弟に成り代わり、このわたくしめがお相手を致そ・・・アイタッ!」

アマテラスの妖術がツクヨミを直撃する。

「馬鹿も休み休み言え。そもそもあれは私がお前に言った言葉ではないか」

「そうでしたかな?まぁ、同じ女好きですからスサノオにも有効でしょう」

「馬鹿者、同じ女好きと言えどもスサノオは女の身体だけが目当てだ。これはスサノオに寄ってくる女の方も、ある程度は割り切っているところがあった。だが問題なのはそなただ。そなたは女の心をも弄ばなければ満足せぬ」

「相手を愛するが故にございますよ」

「違う。そなたは心を手に入れる事が出来れば、その後は急速に興味を失い新たな相手を探す。そなたは相手の心を手に入れる過程を楽しんでいるだけじゃ」

「厳しゅうございますなぁ」

「そなたは人の心というものが分かっていない。それ故に人の心を弄ぶ事が出来るのだぞ?」

「・・・」

アマテラスの厳しい言葉にツクヨミは返す言葉が見つからなかった。

アマテラスは頬杖を突きながら呆れた様子で言う。

「先日もお前がたぶらかした女の父親から、仲を取り持つ様にとの書状が届いておったぞ」

「えー、やだ〜、親を使って姉上に訴えるとは・・・。どこの姫君ですか?面倒臭い子・・・」

「馬鹿者・・・」

アマテラスが突然会話をやめた。

ツクヨミが訝しんで声を掛けようとするも、アマテラスはそれを目で制する。

そして戸の入り口に向かって声を掛けた。

「どうした、早く持って来い」

すると戸の向こうから、先程の女が茶と茶菓子を持って現れた。

二人はその様子を見守る。

女は二人の間にある机に茶と茶菓子を置こうとするが、その手は微かに震えている様だ。

アマテラスはツクヨミに目配せをし、ツクヨミはそれに対して目を僅かに細めて返した。

そして女が茶を盆から置こうとした時、ツクヨミが茶を受け取る振りをしてわざと茶をこぼした。

「あっ!」

こぼれた茶が女の指にかかり、女は小さく声を上げ手を引っ込めた。

「これは申し訳ない」

ツクヨミは強引に女の手を取ると、ほんのりと赤く染まった女の指をいきなりその口に含んだ。

「あっ・・・」

女は驚いて指を引こうとするも、ツクヨミはその手を離さない。

ツクヨミは女の指を舌でゆっくりと舐ると、そのまま上目遣いで女の目を見つめた。

この屋敷で働く者なら皆憧れる、アマテラスによく似た切れ長の妖艶な目だ。

女はその目に艶めかしく見つめられ、硬直したかの様にツクヨミから目を離せない。

ツクヨミはその指を一通り堪能した後にようやく解放し、魅惑的な笑みを女に向けながら言う。

「これでもう大丈夫」

「あ・・・」

女はその指を胸の前で抱える様にしたまま動けずにいた。

「もう良い、下がれ」

女はアマテラスのその声で我にかえると、二人に一礼をし部屋から飛び出して行った。



「見事なものだな」

「性ですかね?」

ツクヨミはこぼれずに残った茶を一口飲んで問うた。

「それで?今の子はオモイカネの手の者ですか?」

「そうよ・・・。あの男、妖術で私を探れぬと知るとあの女を送ってきた」

「はぁ・・・、嫌な世の中にございますなぁ・・・」

ツクヨミは溜息をつく。

「ツクヨミ、あの女を落とせ」

「姉上はご自分の言った言葉を覚えていらっしゃいますか?」

ツクヨミが呆れながら言う。

「妖術で口を割らせてはオモイカネに気づかれる。私が抱きかかえる訳にもいかぬ。そこでお前の出番だ」

「なんと都合の良い・・・」

「心を握れ。女というものは心さえ掴んでしまえば、お前が問わずとも己の方からベラベラと口を割るだろう。その愛故にな・・・」

アマテラスは口の端を持ち上げてニヤリと笑う。

ツクヨミは溜息交じりに言う。

「先程の説教は一体何だったのか・・・」

「先程のは姉としての言葉、今のは為政者としての言葉だ」


明日も続きます。


*:..。o○☆○o。..:*゜*:..。o○☆○o。..:*゜*:..。o○☆○o。..:*


musica 「今日はほんのりエロでしたね」

つっくん 「まぁ昔は娯楽が少なかったからどうしてもね」

m 「明日で終わりですかね?」

つ 「まぁ頑張ってまとめてみなさい」



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by garoumusica | 2016-02-14 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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