稲田姫物語 高天原編 オロチ退治前日の話 その13。

本日も稲田姫物語の続きです。




ツクヨミは溜息交じりに言う。

「先程の説教は一体何だったのか・・・」

「先程のは姉としての言葉、今のは為政者としての言葉だ」

「左様にございますか・・・」

ツクヨミはひとつの懸念について口にした。

「それで、あの女の身の安全は保証してくださるのでしょうね?」

例えあの女がオモイカネに金で雇われてアマテラスを探っているのだとしても、ツクヨミと関係を持った事によって、なんらかの制裁を加えられる様な事があれば、やはり良い気はしない。

それだけは避けたかった。

「もちろんだ。オモイカネに罪を責められぬよう、約束しよう」

「それならまぁ、良うございますが・・・」

アマテラスはその言葉を聞くと満足そうに頷いた。

「我らはあの女の正体を知らなければ良いのだ。そうすれば女好きの愚弟が手を出してしまった、あの女も立場上断れなかった、で済む事だ」

「また恐ろしい事をさらりと言いなさる・・・」

ツクヨミは再び溜息をついた。



そしてツクヨミは話をしているうちに浮かんできた疑問を、何となしにアマテラスに問うてみた。

「ところで姉上、どちらの姉上が本当の姉上でしょうね?」

「何の事だ?」

アマテラスは訝しむ。

「姉として説教をする姉上と為政者として女を落とせと言う姉上。余りにもその言葉が違い過ぎるものですから」

「・・・なるほど」

アマテラスはそう呟くとツクヨミを見つめたまま黙り込んだ。

アマテラスはツクヨミの目を見ているのだが、その瞳はツクヨミを通り過ぎ、何処か遠くを見ているかの様だ。

(しまった・・・、まずい事を聞いてしまったか・・・)

ツクヨミはそのアマテラスの様子を見、思った事を迂闊にもそのまま問うてしまった己を責めた。

誰にでも触れてはならぬ事がある。

それを忘れていた。

先程姉としてのアマテラスに「お前は人の心が分かっていない」と言われたばかりだというのに。

もっとも、触れてはならぬ事をいとも簡単に触れてしまうその最たる人物が、アマテラスではあるのだが・・・。



しばらくしてアマテラスがぽつりぽつりと話し出した。

「どちらが本当の私か・・・。それは、どちらも私では無かろう」

「姉上・・・」

「何故なら、為政者としての私はただのスサノオの代理に過ぎぬ。そしてひとりのアマテラスとしても、本当の名と本来の役割を私自身知らぬのだから、私という者は存在しておらぬのと同じ事・・・」

そうだった。

この高天原の最高神は、あくまでもスサノオの代りに過ぎないのだ。

そしてスサノオが本来の役目を果たすと宣言したその時に、その名を失う。

(私が迂闊過ぎた・・・)

ツクヨミは己の軽率さを心から悔やんだ。

為政者として、三貴神(みはしらのうずのみこ)の筆頭として、そしてアマテラスという名を持つ一人のおなごとして、この姉はどれほどの重圧を抱えながら、独り、誰にも相談も出来ずに生きてきたのだろうか?

そしてそのどれも仮のものに過ぎない。

どんなに精を尽くしたとしても、いずれすべて失われるのだ。

そう考えると、スサノオが黄泉の国へ行くと挨拶をしに来た時に、その地位を奪われまいとして、武装し出迎えたアマテラスの気持ちが初めて理解出来た気がした。

アマテラスの武装は、太陽神の地位への執着ではなかったのだ。

それは己を確立するものを護ろうとする本能であろう。

太陽神としての己、三貴神としての己、そしてアマテラスとしての己。

それらを手放す心の準備も何も出来ていない時に、突然スサノオがやって来たのだ。

スサノオがそれらを奪い返そうとしに来たと勘違いしても仕方なかろう。

己を形作るものが足元から崩れ去ろうとするその音を聴き、ただただ己というものを護る為に武装してしまった姉を、誰が責められようか?



ツクヨミは突然、偉大なる姉がただのか弱いおなごに見えた。

どこにでもいそうな、非力なおなご。

ツクヨミがその手で手折る事も簡単に出来よう。

そして、己が両手で護ってやらなければ、そこに佇む事さえも難しいのではないかと思えてしまう程の・・・。

そしてふとスサノオの事を思い出した。

スサノオもクシナダ姫に対してこの様に感じたのであろうか?

だからこそ、美しき黒髪のその一筋に永遠の守護を誓ったのであろうか・・・?

「何を見ておるのだ?」

「あ・・・」

ツクヨミはアマテラスの言葉に我に返った。

その様子を見たアマテラスはニヤリと笑いながら言う。

「ついに姉にまで欲情したのか?お前は」

(いや・・・、この性格は地だな・・・)

ツクヨミは溜息をひとつ吐くと、先程の考えを改める事にした。

ただひとつの真実を残して。



「姉上・・・」

「ん?」

「姉上にはひとつだけ、変わる事の無いご自分をお持ちです」

「なんだ?」

ツクヨミは一呼吸置いて言った。

「私の姉上であるという事ですよ」

アマテラスはツクヨミを見つめた。

「そしてこの愚弟めが、如何なる時も姉上をお護り致しましょう」

その言葉を聞いた瞬間、アマテラスは太陽神という名に相応しい晴れやかな笑みを浮かべた。

そしてツクヨミの頭を荒く撫で回した。

「お前は私のかわいい弟だ、ツクヨミ」


明日も続きます・・・。


(★´∀`)ノ。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


musica 「今日は絵を描きたくて、時間を節約するつもりで最後の話を二つに分けて書く予定でしたが、まったく違う内容を書かされました・・・」

つっくん 「面白い体験だっただろう?」

m 「そうですね。パソコンの前に座っていざキーボードを叩こうとしたら、まったく違う内容が脳裏に浮かんで来まして。なんとなくそっちを書きました。そしたら姉の苦悩と弟の理解、そして淡い恋心が!?みたいな内容になりました。これって良いんですか?」

つ 「フフフ。まぁそれは見る人の判断に任せれば良い事。古事記のパラレルワールドなのだろう?」

m 「はぁ・・・。ちなみに調べてみたところ、古代の日本では異母であるなら兄妹・姉弟が肉体関係を持つ事が認められていたそうです。スーさんとアマテラねぇちゃんの誓約が実際は肉体を持って交わっていたとした場合、この姉弟はどうなんですかね?父の身体のみから生まれましたから」

つ 「まぁ、妖術で子を成したと言うのが正式な神話だから、そこまでは気にしなくていいよw」



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by garoumusica | 2016-02-15 05:00 | 稲田姫物語 | Comments(0)

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