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稲田姫物語 妖しき剣編 その16-1。

今回の稲田姫物語はちょっと短いです。

以前これで良いのか逡巡していると書きましたが、今だ逡巡しているので、中4日目ですがその逡巡している部分まで載せました。

なので今回は「その16-1」としました。

次回の更新の時にこの続きが載せられるように頑張ります(`・ω・´)。




天の叢雲。

その名を聞いたスサノオの眉がピクリと動く。

スサノオは剣を降ろし、訝しげな表情を浮かべながらゆっくりと視線を男へと移すと、

「天の?」

と、問うた。

『叢雲。この剣が舞い降りた際にその熱で雨が雲と化し、その雲が地に群がった様子を表したものだ』

男はスサノオの「天の」という呟きを受け、その剣の名の由来を伝える。

だが、スサノオは足元に置いた愛用の剣に視線を移すと、男の言葉を遮るように言葉を発した。

「いや、そちらではない」

『は…?』

スサノオは足元の剣から視線を男へと戻すと、怪訝な表情を浮かべた男を見つめ言葉を続けた。

「『天の』。天の叢雲の『天の』とはどういう意味だ?」

『天の?』

男はスサノオが何故「天の」という部分を気にするのか、全くもって分からぬといった様子だ。

スサノオは男の表情の変化を気にする事なく、己の疑問を投げつけた。

「何故ここで『天』の名が出てくるのだ?」



「天」という言葉には、少なくともスサノオの知る限りでは三つの意がある。

一つ目は天、天空の意だ。

天の叢雲の「天」という名が、天空から落ちて来たという意味で使われているならば、成る程、流星から作られた剣だけあると言うものだ。

何の問題も無い。

二つ目は森羅万象を示す「天」だ。

こちらは此度の意味には当てはまらないだろう。

だが、最後の一つの意味で使われているならば、スサノオは違和感を覚えずにはいられない。

それは「高天原」を意味する「天」だ。

高天原の者達は高天原を「天」、葦原中国を「地」と呼ぶ事がある。

そして高天原の者達は何かにつけ、高天原で作られたものに「天の」と名付けたがる節がある。

スサノオの愛用の剣を取ってみてもそうだ。

ただの十拳の剣であるのに対し「天の」とわざわざ名付け、なにやら大層な代物のように見せたがる。

もしこの天の叢雲の剣の「天」が「高天原」という意味だとしたら、スサノオは疑問を抱かずにはいられない。



何ゆえ高天原と名のつく剣が今、己の手の中にあるのか。

何ゆえアマテラスが高天原という名を持つこの剣を所望したのか。

それも、高天原のものであるという事をスサノオに隠した上で…。

恐らくアマテラスはこの剣の名を、この剣の由来を知った上で、スサノオに所望したはずだ。

スサノオは思わず己の手の中にある天の叢雲を強く握り締める。

夕べ、クシナダに手当てをしてもらった傷が痛む。

それでもスサノオは剣を握る力を緩める事はなかった。

何ゆえ高天原の叢雲の剣を持った男がオロチに喰われたのか。

何ゆえ高天原の叢雲の剣を喰らったオロチに、クシナダの姉達が喰われたのか。

果たしてこれらの一致は偶然に過ぎないのか?

それとも…。

この妖しき剣に付けられた「天」という名に、スサノオの与り知らぬ何か重大な事が隠されているように思えてならず、スサノオは眉間の皺を深めずにはいられない。








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by garoumusica | 2018-06-28 06:00 | 稲田姫物語③ 妖しき剣編 | Comments(0)

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